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映画”Least Among Saints”

先日、“Least Among Saints”という映画の特別上映があり、夫と二人で見に行ってきました。この映画は、戦場から無事に帰還したものの、不在の間に結婚生活は破綻し、アルコールに溺れ、また戦地での経験からPTSD(心的外傷後ストレス障害)になった男性が主人公という設定。一時は自殺を図るまで思い悩む彼が、隣人の母子家庭と知り合い、思わぬ形でその男の子の一時的な保護者となることをきっかけとして立ち直っていくというストーリーです。

映画としての評価はいまひとつだったこの作品。批判的なレビューを読んでみると、「帰還兵士と男の子という二人の主役の演技はよいのだが、ストーリーはリアリティに欠ける」というものがありました。自殺をする直前まで思い悩んでいた男性が、偶然に出会った男の子の世話をする状況になったからといって、PTSDやアルコール依存症が(適切な治療なしに)奇跡的に治ってしまうはずはないという指摘です。映画ではなぜ元妻と別れることになったのかが詳しく描かれていないため、私も「男の子と出会ったことで立ち直れたのなら、なぜそれを前の奥さんのために出来なかったのか?」という感想は持ちました。でも、映画という枠組みの中でストーリーを語ることの限界はありながらも、アメリカの抱える帰還兵士にまつわる問題について考えさせるきっかけとなる作品であることは確かだと思います。

今年2月に発表されたデータによると、戦場に行き帰って来た帰還兵士が自殺する割合は、なんと1日に22人にものぼります。ほぼ1時間に一人の割合で、しかもこの数字は調査の対象が22州に限られているなどの理由で「かなり保守的な見積もりのはずだ」という指摘もあり、実際にはこれよりもさらに高い可能性もあるのだそうです。また自殺しないまでも前述のPTSDのため薬やアルコールに溺れたり、除隊後に仕事を見つけることが出来ずにホームレスになる人々も大勢います。実際に、サンディエゴで交通量が多い交差点には必ずといっていいほどホームレスの人が立っていますが、その多くは“Veteran”つまり帰還兵士であるということを説明した紙をもっています。またこちらのレポートでは、現職の兵士の自殺は一日に一人の割合で、現在では戦死よりも数が多いという衝撃的な数字も明らかにされています。

この映画の特別上映会では、映画の脚本を書き、撮影を監督し自ら主役も演じたMartin Papazianが会場に来ていて、上映が終わったあとに質疑応答をする機会が設けられていました。滅多にないことなので、夫も私もいくつか質問をしましたが、この映画を作るために多くの帰還兵士や、ソーシャルワーカーにインタビューをしたと語っていました。こちらの映画のウェブサイトでも、実際の帰還兵士へのインタビューを一部見ることが出来ます。私たちが映画を見た日は、帰還兵士のサポートをするNPO団体であるOperation Homefrontと、ラホヤにあるChildren’s Schoolという私立の学校のジョイント企画で特別上映会という運びになったのですが、3月28日(木)午後7時から、今度は別の団体の企画によりハザード・センターの映画館(7510 Hazard Center Dr. #100, San Diego, California 92108)での上映会が予定されています。また4月以降も特別上映会が予定されており、こちらのウェブサイトに日程が書かれています。日常の生活に追われていると、ともすると忘れてしまいがちなアメリカの側面や、「なんでもない暮らし」ができる影で大きな犠牲を払っている人々がいることに気づかされるという点で、映画としての評価はいまいちだとしても、より広く世に知られるべき作品ではないかと感じました。