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Happiness = Inside Job

フロリダに往復する飛行機の中で、以前から色々な人が推薦していた“Bird by Bird”という本を読みました。”Some Instructions on Writing and Life”という副題のついているこの本はAnne Lamottという作家の書いた「書くこと、そして人生についての指南書」です。とても面白く、行きと帰りの飛行機で読みきりました。

この本は、目次を見る限りでは”Writing”、つまり書くことのプロセスについて、彼女が教える「小説の書き方クラス」の流れに沿って説明されているかのように見えますが、小説の書き方のテクニックというよりは心構えに重きがおかれています。例えば、「出来の悪い草案」についての章では、自分の頭の中で聞こえてくる「こんなのは読む価値もないものだ」「自分には才能がない」「時間の無駄だ・・・」というような声をどのようにシャットアウトして、毎日のように机に向かってとにかく文章を紙に書いていく(コンピュータに打っていく)ことが大切か・・ということが書かれています。また、彼女のクラスには、当然ながら「いつか出版したい」と思う人たちが集まってくるわけですが、正直なアドバイスをしたときの彼らの反応や、小説化志望の人たちがするべきこと(例えば、作品を批評しあえる友達やグループを作るなど)についても書かれています。

彼女の本の中では”Operating Instructions”だけが日本語に訳されているようです。こちらの本については「これは育児書ではなく、赤ちゃんが生まれて大奮闘しているシングルマザーの日記です。ユーモアあふれ、突っ込みどころも多い楽しい本です。 自分の子供がまだ赤ちゃんのときに手にして読んだのですが、日常の大変さを笑い飛ばすことができました」というアマゾンのレビューがありました。”Bird by Bird”の本の最後のほうに、自分がそれまで書いてきた本のことについても言及があったのですが、個人的なこと(父親の死、親友の死、自分のシングルマザーとして赤ちゃんを育てた最初の一年)などをテーマにしながら、「でも同じようなことが起こっている人がいるかもしれない。そんな人たちが読んで、おかしくて笑えて勇気が出るような本があればと思った」という、彼女が書く動機に触れることができます。

中でも秀逸だと思った箇所は「出版」についてのくだりで、出版前の小説家志望者たちの「出版すれば人生がバラ色になる」という幻想を見事に打ち砕くような自らの経験が書かれています。そこで出てきたのが表題の言葉です。「クール・ランニング」というジャマイカのボブスレーチームがオリンピックに挑んだ映画の中でチームのコーチが言った “If you’re not enough before the gold medal, you won’t be enough with it” (金メダルをとる前に『自分は十分だ』と思えないのであれば、金メダルをとったってそう思えやしないよ) 」という台詞を引き合いに出し、「出版も然り。この台詞を切り取って机の前に貼っておくといい」と書いています。そして、”Being enough was going to have to be an inside job”である、と。“Inside Job”とは「中にいる人の仕事」という意味で、よく犯罪ドラマなどで使われる言葉ですが、ここの意味は「外からの評価とは無関係のところで、努力した自分の頑張りについて、あるいはその出来について、自分自身の満足感で心が満たされていないのであれば、たとえ金メダルや出版というゴールを達成したところでそれが変わることはない」というところでしょうか。

私たちもよく「○○さえあれば・・」「XXが△△でありさえすれば・・」、そうすればもっとハッピーになれるのにという思考に陥ることがあります。これは現在のことでも過去に起こったことでもそうでしょう。でも、「今、ここ、この状態」の自分に対して心が満たされていなかったら、それらが叶ったところで一時的な渇きはいやされても、いずれまた別の何かがないとハッピーでいられなくなるのではないでしょうか。Anneは自分の体験も交えながら「作家にとっては書くこと、書けることがすでにご褒美だということを噛み締めなさい」と言っているかのようです。また、外からの評価とは無関係の価値基準で、”enough”、つまり「自分は精一杯やった」ということに満足できるようになるためには、人間的な成長が必要です。罰や、物や愛情というご褒美を理由に頑張るような状況では、この”Inside Job”のスキルを身につけることは難しいのかもしれません。

彼女の本は他にもたくさんあり、いくつかはオーディオブックにもなっていて図書館で借りられることがわかりました。彼女の他の本も読んでいきたいと思います。